数年前「相続税が上がるということで、その節税対策にアパートを建てましょう」というセミナーがよく開かれていた。「今はあまりそのような話を聞かなくなったので一段落したのだろう」と思われる
私は現在自営で不動産業をしている。主に土地売買の仲介をしているのですが、アパート経営をされている方と話をする機会もあります。外から見ていると「アパートを所有されて毎月家賃収入が入ってきていいなあ」ぐらいに思っていましたが、お話を聞くと「なかなか厳しい面もあるのだな」ということがわかってくる。
アパート経営の現実「あるオーナーの話」
あるアパートのオーナーの話です。このオーナーは所有している土地に今から30年ほど前、大手メーカーで2DK×12戸のアパートを建てました。
最寄りのJRの駅から歩いて5分の好立地、南向き日当たり良好、全戸に駐車場付と好条件のアパートです。
新築後20年近く経った頃、数百万円をかけて、駐車場に全面アスファルトを敷き、建物の外装を明るい色に塗装し直しました。その後も、現代風の間取りにするため、空いた部屋から順次リフォームをされています。古くなってくるとあちこち補修も必要になります。
現在までリーマンショック後の数年間を除けば、ほぼ満室で推移してきています。
リーマンショックの際は、12戸のうち一気に7戸に出て行かれたため、家賃収入が大幅に減り、銀行への支払いができなくなったため、「銀行に毎月の返済額の減額をお願いした」とのことです。
周囲にはこのオーナーが建てた後、新しいアパートも数棟建ち、それらに対抗するため「家賃を下げてなんとか入居者の確保に努めている」とのことです。
なるほど、順調に入居者がいれば当初の計画通りに事は進んでいくが、「そう甘いものではないのだなあ」ということがわかる。アパート経営に限らずお金儲けというのは何をしても厳しいものだが。
「やってはみたが、まあ・・・どうかなあ」オーナーの率直な感想だ。
しかしながら、駅近くの更地をそのままにしておけば、高い固定資産税を毎年納めなければならないのであるから、売却する気がないのであれば、「この場所にアパートを建てる」という判断は「このオーナーにとってはベターだったのではないか」と思われる。
他にもこのオーナーと同じような条件で建てられているオーナーの方からも「やってはみたが・・・・・」というこれまた同じような感想を聞かされたことがある。
この両オーナーの場合は、これまで90%前後の入居率で推移しており、アパート経営がほぼ計画通りにできているが、中には入居者が思うように入らず、ローンが支払えなくなり、やむを得ずアパートを手放さなければならなくなったオーナーもいる。
アパート経営を考える際の重要なポイントについて
そんなことにならないために、私が考える「アパート経営をする際の重要なポイントについて」いくつかアドバイスさせていただきます。
・将来に渡り入居者が確実に見込める場所か。駅に近く利便性が良いか、人気のある場所か、日当たりは良いか、駐車場はあるか等々。
少子化で子供は減少しているため、今後ますます「入居者を確保するための競争が激しくなるのではないか」と予想される。
・何れはアパートを取り壊すことになり、その際には多額の解体費用がかかります、その場合「更地にして土地が売れそうか」、もしくは「アパートを売却する場合、売れそうな場所か」。
・融資を受けて建てるとしたら、将来、「そのアパートを相続することになるであろう相続人はそのローンまで一緒に背負追うことになります」。そのことを「相続人は納得しそうか」。
以前、アパートだけならともかく「ローンまで相続させるのはかわいそうだ」と田んぼを売ってローンを終わらせたオーナーがおられました。
・相続の際、現金なら分けることはできるが、アパートだと分割はできない。
・アパート経営という事業です「人任せにするのではなく、経営者としての感覚が必要です」。できる範囲でその経営に積極的に携わりましょう。
私のお客さまでサラリーマンをされているオーナーの方がおられます。日頃はもちろん自分の仕事があるので、管理会社に任せていますが、時間があるときは、自分のアパートに行き、草を抜いたりゴミ拾いをされたりしています。そして「気付いたことは積極的に管理会社に進言しています」。また、このオーナーの方は、年末には入居者に感謝を込めてお歳暮を贈られたりして入居者を大切にしています。
まとめ
所有している空き地を活用するため、ローンを組んでアパートを建て家賃収入の中からローンを支払っていく。「その計画が順調にいけば、節税効果も得られる」のだから、それに越したことはない。
けれども、節税の方にばかり気を取られ、建ててはみたもののアパート経営が順調にいかなければ、逆に苦労を背負うことにもなりかねません。
アパート経営を考えるのであれば、専門家、家族、周囲の方等からそれぞれの意見をよく聞き、自分でもよく勉強して慎重に検討されるべきでしょう。