それは、2年前の初夏のことだった。
その日は土曜日で、私は家でゴロゴロしていたのだが、突然、鳴った携帯の着信音に、安らかな休日は一変したのだった。
「お宅が看板を立てている土地に草が生い茂り、その中に黒い虫がいっぱい湧いて、その虫がうちの家の壁やサッシにまとわりついて、たいへん迷惑しているので、すぐに見に来い!」とのこと。
私はその高圧的な態度に「ムッ!」ときたが、そこは「ぐっ!」と堪えて、「すぐにお伺いします」とお答えした。
クレームは、初期対応がその後の行方を決める
休みの日に「面倒だなあ」とも思ったが、こういうことは「すぐに対応しなければいけない!」と、すぐに車を走らせた。
そのお宅にお伺いすると、確かに白い壁や、サッシの溝にたくさんの黒い虫がまとわりついていて、気の毒な状況になっていた。
その家のご主人が、「この虫は壁にこびりついていて、簡単には取れないぞ、どうしてくれるんだ、清掃費用をみてくれるんだろうな」とえらい剣幕で私に言葉を浴びせかけた。
相手の話を冷静に聞き、決して言い訳はしない
私は、冷静にその方の話をよく聞いたうえで、「ご迷惑をおかけして、本当に申しわけありません」と謝り、「すぐに地権者に連絡を取って対応策を考えます」と申しあげた。
その方も話すだけ話して、気が落ち着いたのだろうか、私服のまま駆けつけた私の姿を見て、
「休みの日に来てもらって悪かったね」と、言葉を返してくださった。
「この雰囲気なら、言ってもだいじょうぶだな」と感じた私は、
「永ちゃん、好きなんですか」と話しかけてみた。
その方は、一瞬「えっ?」て表情をされたが、すぐに頬が緩み「ニコッ!」として、
「そうなんよ、大ファンなんや!」「どうしてわかったの?」
「以前、この近くに来たとき、永ちゃんのビーチタオルが干してあるのを見たんです」「私もファンなんです!」「今年の春も、神戸ワールド記念ホールで観てきたんですよ」
「あー俺も行ってたよ」
「そうなんですか」「Z’s ツアーの最終日だったから、無茶苦茶盛り上がりましたよね」
「そうそう、最高だったよな!」
ドンドン話は弾み、聞くと、この方は、永ちゃんファン歴45年、私は高校生の時から40年だから、この方のほうがちょっと先輩になる。
驚いたのは、毎年、「日本武道館の5日間公演」をすべて観ているとのこと。
「それって、凄いですよね!」・・・(いやー、上には上がいるもんだ)
「武道館の最終日は、ファンはもう、みんな泣いているよ」
「わかります、その気持ち」
「一度、武道館に行ったらいいよ」
「そうですね、一度は行きたいな」って、思ってます。
「すぐに来い」と言われた時は「どうなることやら」と憂うつな気分だったのだが、
思いがけず、永ちゃんの話で盛り上がり、すっかり気分が良くなった。
クレームはチャンス
その後、このご主人から「空き家になっている実家を売りたんだけれど」というお話をいただいたりもした。
「クレームはチャンス」という言葉があるが、正にそれを絵に描いたような話だった。
今年は9月に、大阪の京セラドームで「永ちゃんのコンサート」がある。
私は姉と一緒に観に行くことにしている。
あのご主人も「きっと、来るだろうな!」
「ひょっとしたら、会場で会えるかもしれない」
お互い、肩にタオルを引っ掛けた姿で・・・・・
これからも「ヨロシク!」(笑)