私が住宅の営業をしていた頃の話です。
家は高価なものだけに、そう簡単には売れません。
それだけに、契約できたときの喜びはひとしおです。
契約締結 押印寸前に鳴った非情の電話
あるお客様と商談を重ね、契約をしていただけることになりました。
そのお客様は、土地の分譲業者が開発はしたものの、その後、倒産して塩漬けになっていた土地を、買い取って再販するという業者から購入するとのことでした。
契約の日、私は晴れやかな気分で、足取りも軽やかにお客さんの家を訪ねました。
ひととおり契約内容を説明した後、いよいよ契約書に署名、押印をしていただくことになりました。
ご主人が契約書に署名され、ハンコを押されようとしたその瞬間、突然、電話のベルが鳴った。
ご主人は、ハンコをひとまず置いて、電話に出られた。
電話が終わり、奥さんが「なんだった?」と尋ねられたところ、
「土地が買えなくなった」とのこと。
「えっ、どうして?」
なんでも、その再販業者は、「十数区画ある分譲地を、今回の販売で、ある程度売れたら、まとめて買い取る」という話をしていたらしくて、「今回は、それほど受注が取れず、買取りを止めるので、販売できなくなりました」というような内容だった。
私は、それを聞いた瞬間、「そんなバカな!」「そんな話があるのか」「うそやろ!」と、ちょっと、信じられない思いだった。。
その時、私は人を思いやるような余裕はなかったのだが、
私の傍らで、奥さんが「えー、なによ、それ!」「がっかり!」と声を上げられた。
そうだ、私もショックだったが、「やっと、マイホームの夢が実現できると思っていた奥さんの方が、私よりももっとショックだったのだ」。
「いやー残念ですね」「それにしても、いい加減な会社ですね」
「こんなことがあるんですね」
その場には、言いようのない雰囲気が漂っていたが、営業マンの私は、なんとか間を持たせようと、契約ができなくなり落胆した気持ちを堪えて、言葉を絞り出した。
会社へ帰る途中、私は車を走らせながら、「よりによって、あそこで電話が鳴るかぁー」「ドラマや小説でもこうはならんやろ」「それにしても劇的だったな」・・・・・とまだ、その事が起きたことが信じられないような気持でいた。
気持ちが多少落ち着くと、「上司にどう報告するかな」「また、ネチネチ言われるやろな」「今月は契約0になるな、どうしよう」「困ったな!」という現実に引き戻された。
後日談 「メゲない」私は再度契約に結び付けた
ここまで来て契約が破談とは・・・・・
「何とかしたい」と考えた私は、その再販業者から、その倒産物件を取り扱っている弁護士を聞きだし、その弁護士に連絡してみた。
そうしたところ、「売却できますよ」という話になり、その弁護士との間で契約内容をまとめ、再度契約できる運びとなった。
ハッピーエンド
すぐに、そのことをお客さんにご報告すると、とても喜ばれた。
私も契約が復活することになり安堵した、
その時の価格は、当初の購入金額よりも安くなったため、お客さんから、「それなら隣地をもう一区画購入しようか」というような話も出たのだが、それは思い留まられた。
お客さんも私も、一度は奈落の底に突き落とされたのだが、
結局は、「めでたし!めでたし!」「ハッピーエンド」となった。
まさに「事実は小説よりも奇なり」というような話だった。