移住者の中古住宅購入に対する補助金

今から2年ぐらい前の話です。
私は取引のある社長から頼まれ、その会社が所有する中古住宅売却の依頼を受けました。
その住宅は私の実家がある隣の町にあり、友達もいるし、馴染のある町でした。

早速、我々が加盟している不動産売買のサイトに登録して広告を出していたところ、数件の引き合いがありました。その中で東海地方からの移住を考えているというお客様がおられました。

移住者を歓迎

何度か現地にも来ていただき、商談は順調に進んでいきました。
私が育った町を気に入って下さり、遠方から移住してきてくださる。

「とてもうれしいことだし、ありがたいことだ」

私は「少しでもこのご家族の力になりたい」と思った。

「そうだ!他府県からの移住者に対しては補助金が受けられるのではないか?」と思いついた私は早速、市役所の担当窓口を訪ねた。

移住者に対する補助金

「移住者に対する補助金はありますか?」

「あります」・・・おーやはりあるではないか。

「その内容について教えてください」

「移住して来られて新築される方」もしくは「移住して来られてアパートを借りられる方」

「ふむ、ふむ、それから?」・・・・・「いえ、それだけです」

「えー!!!」私は思わず声をあげた。

「中古住宅を購入してくださる方に対してはないのですか?」

「ありません」・・・・・そんなバカな!

「アパートを借りる方にはあるのですよね、それなのに中古住宅を購入される方にはないのですか!」

「あきれた」。移住して来られるお客様は、ご夫婦とまだ小さなお子様が二人おられる4人家族だ。子供たちはこれから学校に通い始めるし、ご家族4人がこの町で暮らされるという経済効果もある。市に入る毎年の税金も増える。
そうでなくてもこの町は、人口流出に歯止めがかからずに困っているというのに。

空き家対策 移住体験

それも、この町は、我々の不動産協会と協力して、空き家対策として、移住者を街に呼び込むために、「数か月の間、希望する家に試験的に住んでいただく「お試し住宅」「移住体験」という施策も打ち出している、というのにだ。

私は続けて言った。「こちらの町は空き家対策のための移住体験をしていますよね」

「それって、気に入られたらそのままそのお家を買って住まれる」ということですよね。

それなのに、そのまま購入に至ったとしても補助金はありません。新築してくださればあります。

と言っていることと同じではありませんか。

「矛盾してると思いませんか!」私の口調はかなりきつくなっていた。

市の担当者は「一応、そういう規定ですから」・・・・・どこかでよく聞くセリフだ。

私は、あきれるやら、腹立たしいやらで、簡単にその場を離れる気にはなれず、その後も、かなり追求をした後、
「じゃあ、早急に中古住宅の購入にも補助金が受けられるようにして下さい!」とお願いをした。
「検討します」とのことだった。

中古住宅の購入に対し補助金が受けられるようになった

その数か月後私は市役所に「補助金は受けられるようになりましたか?」と確認の電話を入れてみた。

回答は、予想したとおりの「検討しています」とのことだった。
私はその型通りの回答を聞き、「期待は持てないな」と思っていた。

ところが、それから数か月後のこと、市役所の担当者から直接私に電話があった。
「今年度から補助金が受けられるようになりました」との連絡だった。
担当者の声は弾んでいるように聞こえた。
この担当者は「私の意見を真摯に受け止めてくれていたのだ」。
うれしかった。
そうですか、「ありがとうございました」と私は丁寧にお礼を申しあげた。
この時は残念ながら、東海地方から移住して来られるお客様には間に合わなかった。

補助金の恩恵を受ける

しかしながら、その1年後ぐらいに、私の父が亡くなった後17年間空き家になっていた私の実家を、この市役所の空き家バンクに登録して売りに出したところ、間もなく商談がまとまり、その買主がこの補助金の恩恵を受けられるということになった。

あの時、「移住して来られるお客さんのために」と思って、市役所の担当者に掛け合ったことが、まさか、自分の実家を売るときに役立つなんて、こんなことになろうとは思ってもいなかった。

移住者に来てもらうために

現在、地方の町は人口の流出、減少に歯止めがかからず、空き家は増える一方だ。

どこの町も「なんとかその流れを止められないか」、また「わが町に移住してきてもらえないだろうか」と、空き家対策に取り組んでいて、それは、各自治体どうしでの競争にもなってきている。

その空き家対策が「掛け声だけになっていないだろうか」。

移住してこられる方のことを、わがことのように考えているだろうか。

そのことを真剣に考えれば、「移住して来られる方にとって本当にメリットがあることはなにか」自ずとわかってくるのではないか、と思う。

また、現在、移住を考えておられる方は、「移住先での生活環境はもちろんのこと、どんなサポートが受けられるのだろうか、補助金はあるのだろうか」等も慎重に検討されたら良いように思います。