私は37歳の時に、あるハウスメーカーに転職した。
職種は営業だった。
その数か月後に、二人の女性の新入社員が入社してきた。
この二人も営業職だった。
家を売るということは、当然のことながら難しいもので、簡単に売れるものではない。
大学を卒業して15年の営業経験があった私でも、難しいと苦労したのだから、まだ社会経験がない新卒の若い女性にとってはなおさらだったと思われる。
増してや、この会社は新入社員に対して教育をするというシステムがないのだから、なおさら難しい。
それに加え、この会社の上司ときたら、採用しておきながら、何も教えることもなく、売れなければ「いつ、やめるんだ」と迫ってくる。(この上司は、経営者の同族で営業実績はない)
それで辞めていっていた人は、今までにも数多くいる。
解雇 クビの宣告
その上司は、この二人の女性に対しても、入社して数か月後から「売れなければやめてもらう」と言い出した。
二人の女性が「解雇」を言い渡された時の対応は、対照的なものだった。
辞めた女性 辞めなかった女性
一人の女性は、「わかりました」と言ってすぐに辞めていった。
もう一人の女性は、辞めることなく会社に残った。
すんなり辞めていった女性は、4年生の大学を卒業して入社してきたのだが、私たちの目から見ると「仕事の理解力は高いし、ちゃんと指導してあげれば、将来は伸びるだろう」と思えた。
ただ、新卒で入社してきて、社会経験もないまま、結果が出せなくて「辞めてくれ」と言われるのだから、本人にとてはショックだったろうし、辞めるという選択をするのは、ごく普通のことだったと思う。
辞めなかった女性は、その後も、営業成績が上がらない時に呼び出されては「いつ、やめるんだ」と言われてはいたが、この女性には「どうして私が辞めなければいけないのですか」というような強さがあった。
辞めていった女性が、その後、どういう道を歩んでいったのかはわからない。
ひょっとしたら、辞めたことで、もっと自分に合った道に出会えているかもしれない。
辞めなかった女性は、それから数十年経った今も、その会社で働いている。
複雑で厳しい社会で生きていく上には、いろいろな資質が必要になってくる。
この女性のような「打たれ強さ」も一つの武器になるのかもしれない。
私には、そんな強さはないけれど・・・・・
解雇 クビの宣告を受けた 私の場合
その会社に中途で入った私も、営業成績が上がらないと、呼び出されては「いつ、辞めるんだ」と言われたことがあった。
ただ、それなりに社会経験があった私には、そう言われても「あー、そう言って脅してケツを叩いているんだろうな」と思っていたりもした。
しかしながら、一度、本気で「もう辞めてくれ」と言われたことがあった。
その時は、私の営業成績が悪いということもあったのだが、ある誤解もあった。
応接室に呼ばれて「いついつまでに辞表を持ってこい」「すぐに失業手当が出るように、退職理由は、会社都合にしといてやる」、そんな具体的な話までされた。
その話を聞かされた時、私は体が震えたが、同時に「そうは、ならないだろう」という確信めいたなものがあった。
それは、その時、契約できそうなお客さんが3人いたから。
その後、私とお客さんとの契約話が進んでいるのがわかってくると、その上司は、なにも言わなくなった。
まあ、その上司はそんなものだ。
ちなみに、その後、私はその会社に10年ほど勤めて、店長をするまでにはなった。
3年ぐらいは結果が出なくてもいい
会社としても、新しく人を採用するのであれば、ちゃんと仕事を教えて、一人前の社会人に育ててあげなければいけない。
すぐに結果は出ないのだから、長い目で見てあげないといけない。
私の中で印象に残っている言葉がある。
それは、私が大学を出て新卒で就職した時の会社の上司の言葉だ。
その上司は私に「すぐに結果が出なくてもいい」「会社は3年ぐらいは結果を求めていない」「その間に、仕事を覚えてくれたらいい」と言われた。
その話を聞いた私は「少し気が楽になるとともに、会社とはそういうところなのだな」と思ったものだった。
今から40年ほど前の昭和の頃、会社にはそういう余裕があった。
現在は、すぐに結果を求められるような風潮があるように思う。
辞めた方が良かったのかも?
すぐに辞めていった女性がその後、どういう道を歩んだのかは知らない。
ひょっとしたら、早く見切りをつけたことで、新たな自分が進むべき道を見つけることができたかもしれない。
辞めなかった女性は、その後も会社に残っていたが、それから25年後、その会社は売り上げが低迷して店じまいすることになり、再就職先を探さなければならないことになった。
この結果から見れば「早い段階で辞めていったほうが良かったのかも?」とも思えてくる。
どちらが良かったのかなんて、それはわからない。
人生はどう転んでいくかわからない。
たとえ、解雇を言い渡されたところで、なにも悲観することはない。
そのおかげで「新たな一歩が踏み出せるかもしれない」
要は「自分が思うように、好きなように生きることだ!」
私自身は、その会社に11年間勤めた後、「もうこれ以上はつき合い切れない」と考え、自ら退職して独立した。