これは私がサラリーマンをしていた時の話です。
当時、私はあるハウスメーカーで家を売る営業をしていたのだが、家を一軒売るというのは、難しいもので、なかなか売れるものではない。
私はその会社に中途で採用されていたのだが、中途採用ということで、すぐに成果を求められた。
しかしながら、なかなか成果はあがらず、事あるごとに、上司に呼び出されては「売れないのなら辞めてもらう」みたいな話をされていた。
その上司は、私だけに限らず、中途で採用しては、すぐに結果が出なければ「いつ、辞める?」みたいな話をして、実際に、そう言われて辞めていった人も何人かいた。
それも、家を売るための指導やアドバイス等があるわけではなく、いきなり結果を求められるのだから、溜まったものではない。
育てるという意識がないのだ。
そもそもこの上司は、自分では営業ができずに家を一軒も売ることができなかった人なのだから、指導やアドバイスをやろうにも、できないのだ。
また、この上司は、もともと経理畑の方で、その方面の仕事では優秀な方なのであるが、利益率を上げるために、人員を減らすとか、営業所を減らすという消極的な政策ばかりで、売り上げを伸ばして利益を上げるという意識が低かった。
そういう方が役員になり、営業の指揮を執っているという摩訶不思議なことが、この会社では起きていた。
なぜ、そういう人が、役員なのか・・・・・
いわゆる同族経営で、実績があるなしは関係なかったのだ。
まあ、そんなこととは露知らず、採用された私は、その上司にいびられながらも、どうにかこうにかクビをつないでいたのだが、ある時、こんなことがあった。
その会社で働き出して3年目の頃だったかな、
私が契約していただいたお客様とエクステリアの話をする際に、私の家のエクステリアをしてくれた業者を紹介して差し上げたたところ、その会社名が「・・ホーム」という名前だったので、その上司は「こいつは契約も取れないのに、他の会社に仕事を横流ししている」と勝手に思い込み、私を呼び出し「もう、やめてくれ」という話になったのである。
その時は、いつもの脅しまがいの「辞めてもらう」という様子ではなく、怒り心頭に発するという感じで「いつまでで、辞めてもらう」「一応、会社都合にして、失業保険はすぐにもらえるようにしておくから」というような話であった。
私は、いきなりのことだったので、ショックを受けて体が震えた。
けれども、心の中では「そうはならないだろう!」と確信めいたものがあった。
なぜか?
それは、ちょうど、この数カ月は成果が出ていなかったのだが、ここへきて、それまでの努力が実を結びそうになり、3件まとめて成約できそうな状況にあったからだった。
その「クビの宣告」を受けた後のこと、その上司は、私が数件の契約が取れそうだということがわかると、「辞めるのはそれらの契約が済んでからでいいから」と言った。
その後、私は続けざまにその3件の契約が取れたのであるが、その上司は、それまで何もなかったように、私に対して何も言わなくなった。
その一部始終を知っていた店長は「上司は私に謝るべきだ」という思いでいてくれていたが、私自身は「まあ、プライドが高い、そんな人だから」ぐらいに思っていた。
かくして、私は生き延びることができて、その会社には、以降独立するまで11年間勤めたのである。