最高の上司 5「仕事というより、人生そのものを教えていただいた」

その上司はゴルフが上手だった。

それは、趣味で腕を上げたというのではなく、若いころ、関連会社のゴルフ場の会員集めに奔走したことがあり、そのときに、必要に迫られてやっているうちに、シングルになったと言われていた。

当時、私はゴルフを始めて2年から3年、かなり熱中していて、その上司とは、会社のコンペで一緒になったり、打ちっぱなしに行って技術的なこと、マナー等のアドバイスをいただいたりした。

 

忘れられないアドバイスがある。

 

私は完璧症で、仕事にもそれが顕著に現れ、融通が利かないようなところがあった。

 

その上司はそのことを見抜いていたと思う。

 

けれども、直接「おまえのそういうところは悪いぞ」みたいなことは、言われなかった。

 

ある時、上司とゴルフ談義をしていたら、当時、新帝王と言われたトム ワトソンの話を持ち出された。

帝王、二クラウスの後継として、新帝王と言われ始めたトム ワトソンは、その名に恥じないよう、もう一段階上を目指そうと、スイング改造に挑んだ。

しかしながら、このことが裏目に出て、不調に陥ってしまった。

そんな話をしてくださった。

 

私には、上司の意図がわかった。

 

もう一段階上を目指そうとしたこと、私に例えれば、

「完璧を目指そうとすると、返ってうまくいかないこともあるぞ」

ということをトム ワトソンの例を挙げて、アドバイスしてくれたのだと理解できた。

 

まだ若かった私の北陸出張に同行していただいたり、大阪で充実した仕事をさせていただいていたのであるが、健康上の理由から、私は岡山の営業所に戻らざるを得なくなった。

 

こんなことがあった。

私が、会議に出席するため大阪支社に行ったときのこと、

会議が終わり、上司と食事をして、その夜は上司のマンションに泊めてもらった。

 

その際、上司から「次の日は朝一番に出て、必ず、始業前に営業所に出社しろよ」

「大阪の支社長が、ちゃんと出社しているかどうか、確認の電話を入れるはずだから」

「これから、営業所の所長としてやっていく時には、そういうことにも気をつけたほうがいい!」

とのアドバイスをいただいた。

 

次の日、私は言われた通り、朝一番に大阪を出て、始業に間に合うよう岡山の営業所に出社したのであるが、

上司が言われた通り、大阪の支社長から電話が入ってきた。

 

「あー、やっぱり、上司がアドバイスしてくださったとおりだな!」と思った。

 

こんなこともあった。

 

その後、上司は福岡の支社長になられたのだが、

私が出張で福岡支社を訪ねたときのこと、

朝礼で、いきなり私に話を振り、

「それでは、岡山営業所の・・君から、山陽地方の状況について話してもらいます」ときた。

 

予期していなかった私は、少々慌てたが、なんとかしゃべり、その場を切り抜けた。

 

「みんなの前で話をさせてやろう」

これからは、そんな機会も増えるだろう。

 

という、「上司の私に対する配慮がわかり、ありがたいな!」と思った。

 

部下思いの上司で、若手のみんなは、上司のことを兄貴のように慕い、上司の周りには、いつも人が集まり、笑いが絶えなかった。

 

先の投稿の「仕事はクレームに対する謝罪だったが、こういうときこそ、美味しいものを食べて帰ろうよ!」

 

主張先、金沢での夜、「美味しい小料理屋を開拓して、仕事の引き継ぎだけでなく、こういうことも、会社の伝統として引き継いでいけばいい!」

 

「まだ一緒に食事をする時期ではない!」・・・・・等々

 

そんな、大局から物が言える方だった。

 

上司と仕事をした時の思い出はいっぱいある。

 

そして、その思い出、いただいた言葉の数々は、今も、私の心の中に鮮明に残っていて、私のその後の人生を豊かなものにしてくれたと思う。

 

事情があり、私が退社することになった時、

いち早く、福岡から電話をくださり、

「おまえ、辞めるのか」

「そうなのか、じゃあ、一年に一度ぐらいは元気な便りでも出してきなさいよ!」とおっしゃられた。

 

その上司と一緒に仕事をさせていただいた時間は、一年半ほど。

当時、私はまだ26歳と若く、たくさんのことが吸収できた。

 

「人生にはこんな生き方もあるぞ!」

 

そんなことを、暗に教えてくださっていたと思う。

 

その後、勤めた会社では、こんな素敵な上司に出会うことはなかった。

 

いや、たとえ、生まれ変わったとしても、これだけ素敵な上司に出会えることはもうないだろう。

 

私にとって、その一年半は最高に幸せな時間だった。

 

感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 

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