最高の上司 4「接待」タダより高いものはない

私が北陸の担当になった頃、創業間もないある会社が勢いを増してきていた。

当然のことながら、既存のお得意さんとの間で摩擦が生じてきて、うちの会社としても、どちらか片方の会社を担ぐというわけにもいかず、難しいかじ取りを余儀なくされていた。

新参の会社は、人脈を生かし、大きな現場を受注していった。

接待の甘い誘い

ある現場の打ち合わせに、次長とその会社の社長を訪ねた時のこと、

商談が終わり、席を立とうとしたところ、「今晩、食事でもいきましょう」と誘われた。

それを聞いた次長は「いえ、今晩は用事があるので、申しわけありません」と断られたのであるが、

先方の社長は「そんなこと言わないで、行きましょうよ」と執拗に誘ってこられた。

次長は、「いえ、用事があるので申しわけありません」と頑として、その誘いを受けなかった。

横でそのやりとりを聞いていた、浅はかな私は「おかしいな、今日はもうこれで終わりで、他の仕事はないはずなのに、どうして断るのだろう?」

「せっかく、美味しい料理をごちそうしていただけるというのに」と思っていた。

相手の術中には、はまらないよ

私は、その会社を出てから、すぐに次長に尋ねた。

「どうして、断ったのですか?」と。

すると次長は「今はまだ、一緒に食事をする時期ではない」と言われた。

「よくわからないけど、そういうものなのかな」と、私は思った。

その後、私はいくつかの業界で営業活動をしていくなかで、接待をすることがあれば、接待を受けることもあった。

そうしているうち、あの時、次長が言われたことがよくわかるようになってきた。

「そんなことで借りを作りたくなかったのだ」

「相手のペースに引き込まれたくなかったのだ」

「たかが1回の食事が高くつくことを知っていたのだ」

食事をごちそうになるだけでも、借りができたような気持ちが生じ、その後の関係に微妙な影響をもたらすものだ。

現在、私は不動産業をしているが、自分でやっていると、そのことがダイレクトに反映されてくるような気がする。

だから、私はそんな匂いがする誘いには乗らないようにしているし、やむを得ず、そういう場に出くわした際には、支払は必ず、自分が持つことにしている。

支払伝票の取り合い

面白いのは、相手もそのことがわかっている場合だ。

「ここは、私が」「いえ、私が」という、支払伝票の取り合いが始まり、

最後は、「では、今回は私が」ということに落ちつくことになる。

この話を娘にした時、「それ、ギャグであるよ」と言い、笑っていた。

そうだろう、傍から見ていると「この人たち、何をしているの」というようなものだろう。

 

タダより高いものはない

「タダより高いものはない」という言葉があるが、その通りだと思う。

取引相手から、接待の甘い誘いがあると、あの時次長が言われた

「今はまだ一緒に食事をする時期ではない」という言葉を、いつも思い出すのだ。