マンション賃貸借 明け渡し時の原状回復 借主の費用負担 敷金返還

この3月に娘がデザイン学校を卒業したので、賃借していたマンションを大家さんに明け渡した。
明け渡しの時は、貸主側は大家さん、大家さんが連れてこられた内装業者、借主側は私と娘が立ち合ったのであるが、その際、こんなやり取りがあった。

まずは、内装業者さんが、室内の内装や設備関係のチェックを一通りされて、その後、借主の私たちに対して説明があった。

「きれいに使われていますが、クロス等に多少の汚れ等が見受けられるので、すべて張り替えるとなると、お預かりしている敷金以上の費用がかかりそうなのですが、敷金を超える部分に関しては大家さんが負担してくださるとのことです」とのこと。

その言葉に私は「カチン!」ときた。

「それはおかしい!」

「娘が借りたのは2年間であり、それもコロナ禍により、自宅に帰省してリモートで講義を受けている時間もかなりあり、その分、このマンションで生活した期間は少なくなっているのだから、すべてを張り替えるほど汚れているとは思えない」

実際に私が見たところ、汚れていないように見えた。

それに、娘には借りているのだから「傷などつけないように、大切に使うように」と言っていたし、今回の立ち合いの前には、室内をきれいに清掃していた。

内装業者の方に「入居者が明け渡すと、いつも全面クロスの張替えをしているのですか?」と尋ねたところ、

「そうしています」とのこと。

それなら、立ち合いをして確認をする前に、全面張替えをすることは決まっていて、その費用負担を借主に求めるということも決まっていたのでは、と私には受け取れた。

内装業者の方が、他にも「ドアに傷がついていますし・・・・・」と言われるので、確認をしてみると、ドアの樹脂の部分に数カ所、何かで突いたような小さなへこみが数カ所あった。

娘に「傷つけた覚えがあるか」問うたところ、「思い当たらない」とのことだった。

私は売買中心ではあるが、不動産業をしているので、ある程度は建物を見る目はあるし、補修にいくらぐらいかかるということも見当はつくし、賃貸借についての知識も持ち合わせているつもりだ。

このマンションは、外観、内観デザインはいいし、大家さんがしっかりと管理されていることもわかる。
また大家さんは、ご自身でも宅地建物取引士の資格を取得されていて、よく勉強もされているので、その大家さんへのアドバイスも兼ねて、専門家の立場から、先ほどの反論にもう少し付け加えさせていただいた。

「もし、明け渡しの際に、借主の費用負担でクロスの張替えをするというのであれば、予め契約書にその旨を記載し、借主に説明して承諾を得ておかなければならない」

「それに、管理会社が送ってきた明け渡しの案内状には、大家さんが立会いをしたうえで、敷金をお返しします」と記載してありましたよ」
「あの案内状を見ると、あーいくらか返金があるんだなと期待を持ちますよ」

「敷金の返還がないというのであれば、敷金はお返ししますと記載しないほうがいい」

「私が思ったことを遠慮なくストレートに言わせていただきました、生意気なことを言ってすみません」とも申し上げた。

すると、横でこのやりとりを聞いていた大家さんが「わかりました、お預かりしている敷金は全額お返しします」と言われたのであるが、「いや、いいですよ、かかる費用はお支払します」と私はお答えした。

結局、大家さんから「では敷金49,000円の内、29,000円いただき、20,000円をお返しいたします」との申し出があり、私も「それで構いません」と納得した。

基本的に「この大家さんは良心的な運営をされているな」と思っていたし、また、ドアの傷をつけた覚えはないのではあるが、「ひょっとして、引っ越しの際に、ドタバタと荷物を出す際に、荷物をぶつけたのだろうか」という心配もあったので。

※明け渡しの後、私は思った。
「内装業者の方が、敷金以上に費用はかかるのですが、敷金を超える費用に関しては大家さんが負担してくださいますので」というふうに借主に説明すると、一般の人なら「そうか、敷金以内で納まるのだな、追加費用がかからなくてよかった」と思うところかもしれない。
ましてや、学生さんだったら、なおさらだろう。

まとめ 

不動産業をしている専門家の立場からまとめさせていただくと、
今回のような場合は、クロスを張り替える費用を借主が負担する必要はない。

基本的に、借主が通常の使用をしていて発生する損耗(通常損耗)、例えば、畳表やクッションフロアの張替え、壁クロスの張替え、ハウスクリーニング費用等に関しては、借主が負担する必要はないのだ。

ただし、経年劣化や通常損耗ではない、借主が傷つけたものや、汚したものに関しては、借主の費用負担で補修、原状回復をしなければならない。

上記のような通常損耗の原状回復費用を借主の負担とするのであれば、貸主は賃貸借契約を締結する際に、賃貸借契約書に「借主が部屋を明け渡す際には、室内のクリーニング費用、クロスの借り換え費用は、借主側で負担するものとする」と具体的に明記して、借主の承諾を得ておく必要がある。

今回の私の場合は、契約書にそのようなことは明記されていなかったので、反論したのである。

ちなみに、以前、息子がマンションを借りた時には、契約書に「敷金の50,000円は、明け渡しの際、ハウスクリーニング費用に充てるため、返還はいたしません」と明記してあった。

これも私は「おかしな話だ」とは思ったのではあるが、「それならお貸しできません」と言われたら、こちらも困るので、反論することなく契約をした。

この原状回復に関しては、結構トラブルになっているので、契約の際には、明け渡しの時の借主が負担する費用について、よく確認しておく必要があるだろう。

また、借りる際には、荷物を入れる前に、部屋に傷はないか確認をしておく必要があり、もし傷があれば、写真を撮っておいたほうがいいだろう。

できれば、入居する前に貸主と借主で立ち合いをして、確認をしたうえで議事録なりを残しておいた方がいいだろう。

息子がマンションを借りた時には、入居する際に確認表を渡され「傷や気になるところがあれば記載してください」というシステムになっていた。

今回の私の場合は、そういう確認はなかったので、気になるところは自分で写真を撮っておいた。

まあ、トラブルがないよう、気持ちの良い貸し借りをしたいものですね。