先日、以前から不動産のことで相談を受けているお客さまから「新築に関して不安があるので教えていただけませんか」との電話があった。
ほとんどのお客様は、不動産の購入や新築をするという経験は初めてなので、なにをどうすればいいものやら、不安になられるのは無理もないことだと思う。
その時にさせていただいたアドバイスは、これから新築を考えておられる方々に、参考にしていただけるのではないかと思い投稿してみました。
お客様との出会い
私が不動産業を始めて3年ぐらい経った頃、ある女性から、私が取扱いしている「土地の購入を考えたい」との電話があったので、「それでは」と現地でその土地の説明をさせていただくことになった。
お話を聞いていると、そのお客様は、東北大震災の際に起きた福島の原発からの放射能汚染を恐れて、1年ぐらい前に、関東地方のある町から移住して来られたとのことだった。
その土地は160坪ぐらいある大きな土地だったので、何をされるのかお尋ねしたところ、「家を建てて、畑もしたい」とのことだった。
確かにその土地なら広いし、日当たりもいいので、その女性の望みを叶えることはできるだろうが、その土地はひな壇(隣地や道路との高低差がある)になっていたため、土地の周囲に擁壁をする必要があり、その工事に二百数十万円の費用がかかるということを、ご説明した。
その場には、娘さんが移住して来られた場所を気に入り、後から移住して来られたお母さんも来られていた。
お母さんは「家を建てるとなると、他にもいろいろな費用がかかるのだから、この土地はやめたほうがいい」と、娘さんにアドバイスをされていた。
私は、その場では、結論が出ないだろうから、土地に関するその他の概要をご説明して「じっくり、検討してみてください」と言って、その場は別れた。
後日、その女性から「購入はやめておきます」との連絡があった。
電話を受けた私も「そのほうがいいだろう」と思った。
私は、知らない土地で、不動産を購入するといっても、わからないことばかりだろうから「不安なことがあれば、お気軽にお問い合わせくださいよ」と申しあげた。
その後、「この土地は如何ですか」と私の方からご紹介したり、逆に、女性の方から「この土地は如何でしょうか?」とか、「この住宅は如何がでしょうか?」「どう思われますか?」というような、相談を受けたりしていた。
契約に不安あり
そんなやりとりが数年に渡り続いた後、今年の春、久しぶりにその女性から電話があった。
「土地を購入して新築しようと、あるハウスメーカーと契約したのですが、このまま進めていいものかどうか不安なので、ちょっと教えていただけますか」とのことだった。
話を聞くと、まだ、いろいろな打ち合わせができていない段階で、「それは後から説明します」「それよりも、いついつまでに契約していただければ、太陽光発電システムをサービスいたします」と言われたので、つい、甘い言葉に誘われ、契約をしたのですが、その後は、何を聞いても「そのことは、また後で打ち合わせしましょう」と言って逃げるばかりで、こちらからの質問に真剣に答えようとしないので、「このまま話を進めて行ってもだいじょうぶでしょうか?」とのことだった。
私は「それは売る側の術中にはめられている、悪いパターンだ」「それも、契約後、ちゃんと打ち合わせに応じてくれているのならまだしも、ろくに打合せにも応じてくれない」となれば、最悪のパターンに陥ってしまっている。
そんな調子なら、このまま進めていったところで、お客さんが満足いくような結果が得られないことは目に見えているので、「解約したほうがよいのでは」とアドバイスした。
契約金は無駄になるかもしれないけれども、いい勉強をしたと思うしかない。
契約の前に、わからないこと、不安なことはすべて確認しておくこと
契約の前に、すべての打合せを済ませておくこと
新築の請負契約の場合は、なにも形になっていない状況で、高額な契約をするわけだから、お客さんは何がどうなるのか、何をすればいいのか、わからず不安でいっぱいです。
だから、不安なことはすべて遠慮なしに尋ねればいい。
「こんなことを聞いたらどうかな」なんて思う必要は全くない。
なにせ初めて経験することばかりなので、知らなくて当たり前なのだ。
もちろん、売る側は、そのお客さんの不安を取りのぞくことができるように、優しく、丁寧に、細やかな説明をしなければならない。
しかしながら、ハウスメーカー側の営業マンの中には、打合せはそこそこに、契約だけを追い求め、契約をしたら、お客様をないがしろにして、次のお客さんの契約を取りに走るというような不届きな営業マンもいる。
そんな営業マンに当たった日には、せっかくのマイホームの夢が「こんなはずではなかった」という、悲しい結果になってしまうのだ。
それを防ぐ方法は、
「契約前に、わからないこと、不安なことはすべて聞いておく、打合せをすべてしておくことだ」
ハウスメーカーの営業マンは、ノルマに追われ、それはもう契約を喉から手が出るほど欲しがっている。
「だから、契約が取れるまでは、お客さんに対して、親切丁寧な対応をしてくれるので、その間に、できることはすべて済ませておくのだ」。
契約は最後の最後まで、大切にとっておき、
「もう確認することはすべてした、間取り、設備、仕様等の打合せもすべて終わらせた」
「それでは、契約しましょう」
ということになるのだ。
お客さんにとって「契約は最後の切り札」なのだ。
そうしておけば、不安は和らぎ、精神的なゆとりがもてる。
また、後から「可能なら、ここはこのようにしたい」というような打ち合わせも、時間的な余裕を持ってできるようになる。
これが、打合せをろくにしないまま、契約をしてしまうと、その後の流れも後手後手を踏むことになり、時間的な余裕もなくなり、いい結果にならない。
私は現在の不動産業を始める前に、あるハウスメーカーで11年間住宅の営業をしていました。
同じ会社の営業マンの中には、ここに書いたような、契約までは親切丁寧な対応をして、契約をしたとたん、手のひらを返したように、お客さんへの対応がひどくなる人もいました。
ある時などは、その豹変した態度に激怒したお客さんが、会社の上司に対して猛抗議に来られたこともありました。
私自身はそうならないよう気をつけていたつもりですが、契約が取れると、どうしても「ホッとする!」というところはありました。
お客さんにとって、契約は「これからマイホームの夢を実現するぞ!」というスタートなのですが、営業マンにとっては「契約が取れた」というゴールになるのです。
ここに、大きな温度差があり、お客さんと営業マンとの間には、モチベーションのギャップがあります。
私自身も若い頃は、お客さんに対して至らない点はあったかもしれません。
けれども、いろいろな経験を積んでいくうちに「契約までにすべてを決めておいた方がいい」と思うようになり、そのようにしていました。
また、そうしたほうが「後々のクレームも少ない」こともわかりました。
契約までの打合せが足りていないから「こんなはずではなかった」ということになるのです。
ということで、くれぐれも、できることはすべて、契約前に済ませておきましょう!
※すべてのことを決めておくといっても、各ハウスメーカーや工務店により、それぞれのやり方があるでしょうから(例えば、製品の色を決めるような細かな打合せは、その都度行う等)、その工程を聞き、よく理解したうえで進めていくということになります。
契約書の内容をよく理解しておくこと
あと、契約書の内容をよく理解しておいたほうがいいでしょう。
なんでしたら、前もって契約書を受取り、家に持ち帰って確認してから、後日、わからないことは質問すればいい。
なにも遠慮することはありません。専門用語は出てくるし、わからなくて当然なのですから。
実際に、私が住宅の営業をしていた時、契約の前に「契約内容を確認したい」と言われ、契約書を家に持って帰られて確認されてから、後日、契約に臨まれる方もおられました。
契約の日に「それでは契約しましょう」と言われ。契約書を読み上げられても、すぐに理解できるはずはないのだから。
着工後の不安
先日、久しぶりにその女性から電話がありました。
話を聞くと、最初に契約したハウスメーカーは解約して、新たに他のハウスメーカーと契約して、棟上げまできたのだけれども、「また不安になることがあるので教えていただけませんか」とのこと。
その内容は、「棟上げまできて、入金の要請をしてきているのだけれども、通常、現場で見かける施主や建築業者名が記載されている看板が立てられていないのですが、だいじょうぶなのでしょうか?」
「ちゃんと私の家を建ててくれているのでしょうか?」
それと、契約の際には、来年1月末には完成すると聞かされていたので、「なんとか、寒い冬の間に、高齢のお母さんを暖かいお家に住ませてあげることができる」と思っていたのですが、ここにきて、完成は3月末になりますと言われて、どうしてそうなるのか、腹立たしい思いがしているので、強く抗議したほうがいいのでしょうか?というものだった。
看板は、ハウスメーカーに尋ねたところ、その後、立てられたとのこと。
私は「着工しているということは、市役所の建築指導課で、施主の名前で建築確認を受けてから着工しているので、不安であれば、ハウスメーカーに言って、その建築確認済証を受取るようにすればいい」それには、あなたの名前と建築許可番号が記載されているはずですから。とお答えしたところ、「確かに、看板には建築許可番号は記載されていました」と言われ、安心されていた。
※建築確認済み証や完了検査済み証は、引き渡しの際か、それまでに、メーカー側から渡されるはずです。
もう一つの工期が遅れるという話。
工期が遅れる理由を尋ねると、エコキュートが入ってこないとのこと。
ちょうど私は、前日のテレビで「半導体が入ってこないので、給湯機の製作ができないため、納入が遅れて困っている」というニュースを見ていたので、「ある程度の抗議をすることは必要でしょうが、その問題は、ハウスメーカー側で解決できることではないので、エコキュートの納入を待つしかないでしょうね」「ただし、黙っていたら、入庫しても後回しにされる可能性があるので、時々は、まだでしょうかとメーカー側にプレッシャーをかけておいた方がいいでしょう」とアドバイスしました。
私への質問はこの二つだったかな、まだ話をしたかもしれないが、話を聞いていて私が思ったのは、「ハウスメーカー側の担当者の説明が足りていないのだ」ということ。
お客さんにしてみれば、なにせ初めてなことばかり、どんな流れになるのだろうか、ちゃんと思い描いている家が建つだろうか、高額なお金を支払うわけだから「不安でいっぱいで当然」なのだ。
増してやこのお客様は一度契約に失敗されて、「今度はだいじょうぶかな」と不安を抱えられ、より慎重になっているのだ。
だから、売る側の人間は、その不安を取り除いてあげられるように、わかりやすく、ていねいな説明をしてあげなければならない。
最後に
お客さんは自分という人間を信頼して、数十年の住宅ローンを組んで契約をしてくださる。
これは、営業マンにとって、このうえない喜びであり、営業マン冥利につきます。
だから、そのお客さんに満足していただけるような仕事をしたいと思う。
しかしながら、細心の注意を払い、建築を進めて行っていたとしても、どこかでミスが起きることがある。
それは、建築の場合、営業マン、設計者、コーディネーター、現場の監督、配管、屋根、内装、外装、設備等のそれぞれの職人さんなど、家が完成するまでには、たくさんの人が関わるため、そのどこかで、聞き間違いだったり、話が伝わっていない等のミスが起きる可能性があるから。
ましてや、最初の打合せが不十分だったりすると、よりその可能性は高くなります。
自分が望んでいる家を実現するため、契約までに、わからないこと、不安なことはすべて確認しておくこと。
打合せはすべて済ませておくこと。
そして、建築中も、打合せ通りに進んでいるか、現場を確認したほうがいいでしょう。
それでは、「夢のある、いいお家を建ててください!」